ベストセラーになった社会工学系のビジネス本がしばらくも経たないうちにブックオフで叩き売りされる。別に今に始まったことではないが、そんな状況を見かけるたびに、コンテンツの強度について考えさせられてしまう。

コンテンツの強度とモード

もちろんこういったタイプの書籍はコンテンツを楽しむのが目的ではなく、最新のコンセンサスを詰め込むという意味合いが強い。たしかに電子メディアで日々追いかけるより、後発の紙媒体でより確実なコンセンサスをチェックするの方が効率がいいのかも知れない。紙媒体の特性である遅さが、新しい付加価値になりつつあるという考察もできそうだ。どちらにしても、トピック最適化を優先したコンテンツというものは、トピックのモードが変わった途端、鮮度が落ちることを宿命付けられている。

さて、ここではコンテンツの質ではなく情報が伝播することを重視した売り方、つまりコンテンツそのものよりコミュニケーションすることを目的とした書籍が増えてきていることに注目したい。

最近のコンテンツビジネスはいかにクチコミを巻き込むかみたいなことばっかり言ってるわけです。(中略)そこではコンテンツの良さはもはやどうでもよくて、クチコミのネットワークが活性化するかというところ、いわゆる「繋がりの社会性」をベースにした消費に主眼が置かれている。みんな盛り上がるんだからいいじゃんみたいな開き直りがいま全面化しているわけです。
ユリイカ2011年2月号 特集=ソーシャルネットワークの現在

コミュニケーション的転回に到るまで

高田明典氏の『現代思想のコミュニケーション的転回』では、歴史上4度のコペルニクス的転回が起きており、現代はコミュニケーション的転回以後の世界であるとして、その意義と問題点について説いてある。先述の書籍の売り方、コンテンツの在り方の変化こそ、コミュニケーション的転回以後の状況であると言えるだろう。

コミュニケーションを主題にすると社会工学的に、「正しさ」をキーワードにするとロールズ以降のアメリカ思想史に偏りがちなイメージがあるが、ここで言われる4度の「転回」はデカルトから出発してハーバーマスまで、つまりヨーロッパの思想史に沿って展開させている。これはありそうでなかった解釈である。

本書から引用&加筆した下図は、現代におけるコミュニケーションの前提となる価値観の変遷がわかって面白い。

4つの「転回」の展開と代表的な思想家

4つの「転回」の展開と代表的な思想家

コンテンツとコミュニケーション

「転回」を「イノベーション」に、「作る」を「クリエイティブ」に、「みんな」を「クラウド」と置き換えてもいいだろう。これは食傷気味の社会工学系の知に対する皮肉ではない。本書はコミュニケーションを主題にしている時点で、他の書籍よりコミュニケーションすることを運命付けられており、幅広い層を射程に入れて書かれているように思えるからだ。実際、第6章の「現代コミュニケーション論概観」では、認知科学や行動経済学に近い文脈の「今すぐつかえる」理論が、見本市のように並べられている。

「正しさ」をキーワードにしているのも本書自身のコミュニケーション指向ではないかと疑ったが、むしろこれはその逆で、コミュニケーション的転回以後の世界だからこそ「正しさ」を議論する必要があるのだろう。ハーバーマスがサンデルを支持しているのも偶然ではない。

とりあえずコンテンツの強度については一つ結論が出た。確かにコンテンツはコミュニケーションすることで初めて「意味が生成される」。しかしそのコンテンツが高い強度を保つためには、現代のコミュニケーションに至るまでの転回(超越論・言語学・解釈学)を踏まえていることが一つの条件となるのではないだろうか。

コミュニケーション学という捉え方であれば、記号論、意味論、テクノロジー論を経由してメディア論に言及してるこちらの方が本流だろう。