2002年の Banksy のサイトに掲載されていた「WILL U JUST CUT IT OUT」の全文和訳。

graffitti, lies and beady little eyes

WILL U JUST CUT IT OUT

これからステンシルの世界へ飛び込もうとする若者へのアドバイス

何でもいいのでステンシルになるものを用意します。そして完璧なアイデアが浮かぶまで延々と待ちます。ちなみに賢明さは、あからさまなバカバカしさ、失敗作、公的屈辱に勝ることはないので注意すること。

まず鋭いナイフを用意してください。鋭ければ鋭いほど全工程が楽になります。トーンナイフがあれば完璧です。

次にあなたのアートワークをスプレーのりなどでステンシルに張り付けます。ステンシルにはアセテートシートが最高だけど、どんな種類のボール紙でもOK。1〜1.5mmの堅さぐらいが理想的です。

あらかじめ上着の下のシャツに、ステンシルを貼り付けるための粘着テープを何枚か貼り付けておきましょう。

ペンキを使用したときそれが手に着かないよう、折りたためるものを見つけてください。例えば赤い塗料を塗る場合だと、ピザの箱の底にステンシルがはめてあれば、手に塗料が着いてしまっても、それほど疑わしくないでしょう。

何か他におもしろいものを見つけてしまう前に、さっさと家を出ます。

常に辺りを警戒できる人を同伴して行動するのをお薦めします。注意深すぎることも、不注意なことよりはましです。警察の車を見かけた場合、街中でスプレーするのはやめましょう。そして同伴者は少し離れた場所に立ち、携帯電話で「うん、うん、スゲー、マジで?」と話している風に装いましょう。壁にスケッチが出来始めたら、携帯電話に向かって「今、1分経った」などとしゃべって伝えましょう。

10cm 程度の距離からステンシル上に控え目にスプレーしましょう。

あなたがセキュリティーカメラを備えた場所にいる場合も想定し、注意を払いましょう。フードを着用し、素早く動き、悲しい酔っぱらいのフリをしましょう。

本当に飲み過ぎてしまうと、壮大なアートワークができ上がった後、少なくとも一晩独房ですごすことになるので注意しましょう。

あなたが壁に描いた落書きのことを警察に説明する場合は、可能な限り簡潔に述べましょう。グラフィティライターは悪質な犯罪者ではありません。ここでの悪質な犯罪者とは、何かを破壊することを考えているような人間のことで、何かを盗む人間や、自分の名前のタグを書き逃げするような人間は、彼らも一番最後に面倒を見たい犯罪者です。

財産に対する犯罪が、リアルな犯罪ではないことを覚えておきましょう。人々は油絵を見て賞賛し、そのハケ使いに意味を感じます。人々がグラフィティを賞賛すれば、それが描かれた下水管の前をわざわざ通るようになります。

フェイムを狙ったアートワークで有名になることはありません。全てのフェイムは何かを意味するものに対する副産物です。描き終わったら、レストランで食事などせず、まっすぐ家に帰りましょう。

Banksy

stencil art by Banksy before 2002

これは2003年頃、Banksy がオンラインで公開していたテキストの翻訳である。Banksy が有名になってからも、ネット上で見かけないため、ここに再掲した。

その頃の Banksy は、”Existencilism”(ステンシル実存主義)という作品集をリリースしたばかりで、まだステンシルアートに特化したグラフィティアーティストであった。また彼はステンシルアートを、その特性から”Weapons of Mass Disruption”(大衆概念破壊兵器)と定義していた。

ステンシルは、同じアートワークの大量複製が可能である。EPSやPDFなどのシームレスなファイルフォーマットでインターネット上に公開すれば、誰でもダウンロードでき、どんな大きさにでも出力できる。だからステンシルを使ったアートワークは、ダウンロード文化と深く結びつき、ボミングの手法として再評価されていった。ステンシルにおける「カット&ペースト」は、「切り抜いて、吹き付ける」という意味である。

『ユリイカ2011年8月号 特集 バンクシーとは誰か?』にも、バンクシーのステンシルに関するリテラシーがあったので、最後にそちらも引用しておく。

通常バンクシーは、サイズの大きなストリート・ボム用のステンシルを切る際には段ボールなどの適当な厚紙を台紙に使い、あらかじめ用意した絵をプロジェクターで壁に投影して絵を写し取った後、普通のカッターでスピーディーに切り抜いていくのだとか。(……)しかもバンクシーは事前にボムする場所(壁面)を綿密にロケハンしてサイズも測り、その壁に合った作品を作ることを心掛けており、怠りなく準備してから深夜〜早朝の目立たない時間帯に素速く作品を仕上げているという。
『ユリイカ2011年8月号 特集 バンクシーとは誰か?』-「バンクシー・テーマ別作品解説」

Banksy Gets Dissed?