21世紀最初の「芸術運動」とされながら、未だに謎の多いターム NEEN。今でも CBC-net などのメディアアート系に強いデザインサイトにおいて、主にラファエル・ローゼンダール(Rafaël Rozendaal)の文脈を解釈するのに、参照される概念である。

NEEN とは何なのか?

NEEN

NEEN とは、一般的に言われる「理論」ではない。「理論」という形をとった「アート」であり、目的を持った「アート」や、計算された「アート」の退屈さや心地悪さを解消するための「理論」である。

今回はこの NEEN の基本概念を紐解くためのテキストとして、「NEEN マニフェスト」なるものを紹介したい。このマニフェストには、2つのヴァージョンが存在している。

1つは、ずいぶん前(たしか2003年頃)に NEEN 関係者の上田舞さん(Mai Ueda)から頂いた「NEEN マニフェスト」の「日本語版」で、NEEN の概念を、その言葉の由来や対概念である TELIC から言及した内容である。また当時の NEEN の活動についても触れられている。

もう1つは、PDFで配布されたり、いろんなサイトで公開されたりして知られている「NEEN マニフェスト」の「邦訳版」で、こちらは「日本語版」より具体的に(しかし内容はより抽象化され)NEEN の概念を記述している。調べたところ、このヴァージョンは、公開時期によって若干の書き換えがされているようである。ここでは NEEN 首謀者であるミルトス・マネタスのサイトに上がっているヴァージョンを引用し、翻訳した。

WHO'S NEEN / WHO'S TELIC

NEEN マニフェスト(邦訳版)

わたしが NEEN について知っているいくつかのこと

NEEN を象徴する NEENSTAR たち、まだ何にも定義されないヴィジュアルアーティストの世代は、コンテンポラリーアート界に属す人々や、ソフトウェア開発者、Webデザイナー、ビデオゲーム・ディレクターやアニメーターによって構成されています。

現実に関する(量子物理学などの)公式な理論は、われわれの生活における感覚がシミュレーションの感覚であることを証明しています。マシンはわれわれが自然と呼ぶシミュレーションを模倣し、それが快適に感じられるようサポートします。部屋のドアを開けることや、コンピュータのデスクトップにあるフォルダをクリックすることは、あなたを似たような行き先に向かわせるでしょう。二つの現実は一見どこにも隙がないように共存していますが、いったん分析を始めると、その二つは融け合っていきます。

NEEN にとってのコンピューティングは、シュルレアリスムにとっての空想、またコミュニズムにとっての自由に相当するものです。それは文脈を作るだけでなく、先延ばしすることも可能にします。NEENSTAR は最新のプロダクトを買い、どうやって活用できるか学んでいます。彼らはマシンの栄光をたたえながら、簡単にそれに飽きるのです。彼らは他人がそれらを使っているのを見ているだけでいいと思うことさえあります。

NEENSTAR は活動の合間に楽しみを見出します。NEEN とは、いろいろなOSをムダに使うことなのです。

NEENSTAR は、香港で立派なビルが増殖されるのと似て非なるやり方で、複製することを好みます。NEENSTAR にとって大事なのは、名前、服、スタイル、アート、建築物などです。だから彼らは、過去の成果がさほど重要じゃないかのように、すべてを一から作ります。

NEEN はとてもセンチメンタルですが、アイデンティティとは関係ありません。NEENSTAR はその特権を受けるために、自らのアイデンティティをパスワードとして使うことさえあります。

なぜなら NEENSTAR のアイデンティティは気分であり、必要であれば、他の NEENSTAR のアイデンティティも自由に使い、逆に NEENSTAR が他の NEENSTARとしてアートワークを作ることができるからです。これが NEEN とコンテンポラリーアートの大きな違いなのです。

いつも自分らしさを求められるコンテンポラリーアートにおいては、自分の一生を映す「鏡」になるまで自己イメージを磨き続ける、ヒーローのようでなくてはなりません。しかし NEEN においてあなたは「スクリーン」のようなものです。NEENSTAR は常に作りかけの自分を投射し、制限なく現在から過去へ、未来へと移動します。

そして NEENSTAR はすべてをWeb上に公開するので、その気分がみんなの感覚に反映されます。NEENSTAR は公共のペルソナたちなのです。

もし空想がシュルレアリストたちをバカげたものにしたのなら、革命がコミュニストたちを失敗させたのなら、コンピューティングによって NEEN がどうなるのか観察するのも面白いでしょう。

2000年のニューヨークにて 
ミルトス・マネタス

Jackson Pollock by Miltos Manetas

誰でもジャクソン・ポロック風なペイントができる、jacksonpollock.org by Miltos Manetas

NEEN マニフェスト(日本語版)

NEEN について

NEEN は、ミルトス・マネタスとアートプロダクション基金のイボンヌ・フォースが、カリフォルニアのブランディングカンパニーであるレキシコン社(Lexicon)に依頼して、誕生した名前です。

レキシコン社は他に Power Book、Embassy Suites、Pentium などのブランディングを手掛けたことで有名です。その後、上田舞の提案によって良い NEEN をする人々のことを NEENSTAR と呼ぶことが決まりました。

NEEN は2000年の5月の最後の日にニューヨークのガゴジアンギャラリー(Gagosian Gallery)で発表されました。

NEEN と TELIC について

レキシコン社は100ターム以上の名前を提案しましたが、ミルトス・マネタスはその中から NEEN と TELIC を選びました。

TELIC は言語学の概念から割り当てられ、その意味は「方向性のあるものやゴールに向かっているもの」、また「意味を通したがるもの」です。「ロサンゼルスにいくために運転している」のは TELIC とされます。ちなみにギリシャ語で TELOS とは「終わり」とか「目的」という意味です。

NEEN はレキシコン社の作ったコンピューターのプログラムから生まれました。DADA のようなパリンドローム(回文)で、古代ギリシャ語の「まさに今」という意味です。

NEEN ムーブメントは、インターネットとクチコミにより広がっていきました。私たちの時代は TELIC です。でももっと NEEN が見てみたい。

TELIC の定義はテクノロジーをつかった魔法です。世界をデザインすることの手助けをし、ものごとの見通しをよくします。レム・コールハースの本「S,M,L,XL.」。TELIC は建築的で、仕事とかかわるすべてのこと。審美的な人々の中でも、仕事や顧客をもつ人たちは TELIC です。

しかし稀に、これらの TELIC が重要な NEEN を生み出すことがあります。多くの場合、小さな概念から来ていて、彼らの悪夢のような仕事の隙間に隠れていたりします。このケースでの NEEN は、TELIC の顧客たちには分からない、聞くこともできないレベルにあるもののことです。TELIC はまじめな概念化をベースとしていて、意味が通っている、もしくは意味を通そうとしています。人々はそれに普通に反応し、信用します。

NEEN は、気のくるった TELIC です。人々はそれを信用できず、作った人でさえそれを繰り返すことをためらいます。
100% NEENSTAR の存在は稀です。定職やプロフェッションをもたないことも多く、ひとつの場所に留まりません。

TELIC はジャコメッティで NEEN はフォンタナ。自然は TELIC で奇跡は NEEN。目的をもった奇跡はたちまち TELIC、ばかばかしい奇跡は NEEN。たとえばイエスキリストが水面を歩いたことなどは何百年も NEEN であり続けます。しかし、もし今イエスキリストが帰って来て、また水面を歩きはじめだしたら、それはたちまち TELIC になってしまうでしょう。

どのような NEEN を維持する方法も存在しません。なぜなら NEEN は少し後には期限切れになってしまうからです。NEENSTAR たちはそれに対して平気でいられるひとたちです。

NEEN プレゼンテーションの後、まもなくしてロザンゼルスのチャイナタウンのギャラリーエリアであるチャンキンロード(Chun King Road)に、キューブ状のプロジェクターがあるスペース、エレクトロニック・オーファネッジ(Electric Orphanage)が誕生しました。

2002年3月エレクトロニック・オーファネッジはオンライン・エキシビジョンの whitneybiennial.com を創り、実際のホイットニー・ミュージアムのショーから注目を奪うことに成功しました。NYタイムズはオープニングの1日前に、一覧の記事を掲載し、ほとんどの内容は whitneybiennial.com についてでした。

AFTERNEEN は「リアルスペースはバッドテースト、今一番おもしろいアートはオンラインにある」というテーマのもと、シミュレーションを使って、オランダ、ユトレヒトのカスコ(Casco)と、ロサンゼルスのエレクトロニック・オーファネッジで、同時に開催されました。

"A Few Things I Know About NEEN / Miltos Manetas" designed by Experimental Jetset

"A Few Things I Know About NEEN / Miltos Manetas" designed by Experimental Jetset

NEEN を実践するアーティスト

最後に、NEEN を体現するアーティスト(NEENSTAR)、ラファエル・ローゼンダールの作品群を紹介しておきたい。

彼は1作品/1ドメインの単位でオンラインに作品を公開し、ドメインごと作品を売り渡すという手法を取っている。つまり売れようが売れまいが、作品はオンラインに公開され続けるわけである。重要なのは、NEEN においてはこうしたアプローチに、「アートを買って所有することの意味を問う」といったイデオロギーが存在しないことである。

オンラインという抽象的な空間に、抽象化された概念を持ち込んだこと。メディアアートのようでありながら、時代の文脈を意識したり、最新のテクノロジーを採用することに価値を見出さないこと。こうした NEEN という概念の軽さが、10年以上経った今も風化していない理由である。

into time .com by rafaël rozendaal, 2010

into time .com by rafaël rozendaal, 2010


hybrid moment .com by rafaël rozendaal, 2009

hybrid moment .com by rafaël rozendaal, 2009


hot doom .com by rafaël rozendaal, 2009

hot doom .com by rafaël rozendaal, 2009


aesthetic echo .com by rafaël rozendaal, 2009

aesthetic echo .com by rafaël rozendaal, 2009


color flip .com by rafaël rozendaal, 2008

color flip .com by rafaël rozendaal, 2008


jello time .com by rafaël rozendaal, 2007

jello time .com by rafaël rozendaal, 2007