UX デザインを贈与モデルによって捉えなおす。そのプロセスは「共感」から始まり、「共創」を通じて、「共存」を目指している。

贈与モデルへの回帰

2012年、デザインの方法論が乱立した印象があるが、おおよそのコンセンサスは「顧客開発によるサービス設計」の範疇に収まっていたように思う。

また個人的には、ユーザーとサービスやプロダクトの関係は動的なモデルであり、これらの「関係性」を捉えるには、生態学的な観点が不可欠であることを再認識させられた年であった。そしてこの「関係性」を明らかにするために、UX デザインではユーザーとの接点(タッチポイント)を洗い出す。つまり最後は「コミュニケーション」の問題に行き着くことになる。

かつて文化人類学者のレヴィ=ストロースは、「コミュニケーション」を「交換」と同義に捉えた。それは言葉や物、女性(婚姻)などの「交換」によって、社会的秩序が形成され、関係が維持されているという理屈であった。

またレヴィ=ストロースに影響を与えたマルセル・モースは、未開の地における「交換」の文化に、「贈与」と「返礼」の関係を見出している。そしてポトラッチに代表される部族間の「交換」では、「贈与」されたものに潜む霊性や呪術性によって「返礼」が義務付けられていることを世に知らしめた。

この話を、未開の地の迷信と切り捨てることはできない。なぜなら現代に生きるわれわれも、彼らと同じように、他人からもらったプレゼントに感謝しないことを、バチ当たりと感じてしまうからである。

商取引モデルは「利益」を目指すが、贈与モデルは「コミュニケーション」を目指す。そして贈与モデルは、合理主義や商業主義以降に栄えた商取引モデルよりも遥か昔、クロマニヨン人の時代から変わらず存在している。ネアンデルタール人ではなくクロマニヨン人が生き残ることができたのは、多くの「贈与」の交易網を持っていたからではないかといった説まである。

つまりわれわれにとって、贈与モデルは長い歴史における不変項であり、数少ない支えであると言える。そして今回はこの贈与モデルを基礎にして、UX デザインにおけるユーザーとサービスの関係について考えていきたい。

Photo of Tlingit clan members from Angoon, Aalaska at a potlatch in Sitka in 1904

Photo of Tlingit clan members from Angoon, Aalaska at a potlatch in Sitka in 1904

価値提供から関係構築の問題へ

最近サービスを構築することを、プレゼントを贈ることに例えて説明している。これが今のところ、一番わかりやすい贈与モデルの見立てだと考えている。

この場合のユーザー調査は、相手のことを検索をしたり、ソーシャルメディア上のログを漁って調べることに等しい。さらにその友人や関係者に聞きこみをすることで、より多くのインサイトを得ることができ、相手が欲しいプレゼントに近づくことができるだろう。

しかしこのやり方はあまり効率的ではない。なぜならその相手と直接会い、話をしながら表情や雰囲気を読みとれるぐらいまで関係を深めていき、その上で選んだプレゼントの方が、喜んでもらえる確率が高くなるからである。これは UX デザインがユーザー像を特定しなければならない理由でもある。

このアナロジーによって示唆したいのは、ユーザーにとって価値のある「贈与」へ辿りつく、ごく当たり前の方法である。そして注目すべきは、サービス構築のプロセスが、ユーザーへの価値提供から、ユーザーとの関係構築の問題へと絡め取られていることである。

essimar

共感・共創・共存

贈与モデルによるサービス構築のプロセスは、以下の三段階に分解できる。

「共感」してもらうこと

ユーザーとの関係を「共感」からスタートさせること。サービスの価値をユーザーと共有すること。つまり仮説/検証をその場でやってしまうこと。ユーザーと同じ方向に進むためには、ユーザーのことを深く知っていなければならない。

このとき UX デサイナーに必要なのは、ユーザーの参加によって発生するバイアスに注意しながら、場をファシリテートするスキルである。

「共創」すること

ユーザーに方法を「贈与」し、ユーザーと共につくること。ユーザーが自分で使うものに感情移入できるようにすること。ユーザーに参加してもらうことで、プロトタイピングはチームビルディングの方法になる。

このとき UX デサイナーに必要なのは、ユーザーの心理的欲求を捉えて構造化・組織化を手伝う IA 的なスキルである。それは決してユーザーの要望や課題を、機能やコンテンツに変換することではない。

「共存」していくこと

ユーザーと提供者の先には、サービスを通じて共に生きていく未来がなくてはならない。それがユーザーへの価値提供においても、ユーザーとの関係構築においても、最終的に目指すべき姿である。もし両者が共存できないのであれば、そのようなサービスは不必要ということになる。

このとき UX デサイナーに必要なのは、コミュニティを育成する世話役のようなスキルである。

すでに「共感」や「共創」は語り尽くされているが、「共存」を目指すことについては、あまり触れられていないように思う。しかし UX デザインは、科学であり、工学であると同時に、倫理学を必要としている。これも2012年に再認識されられたことのひとつであった。

サービス構築における UX デザインの役割は、概念的にここまで単純化できる。これは2012年の総括であるが、まだ仮説に過ぎない。2013年はこのプロセスを実践しながら検証していきたい。